派遣から年収1000万になった

約10年。
僕は、長い間派遣社員だった。
はじめて正社員として雇用されたのは30代前半だ。
ぶっちゃけ、この年になるまで正社員で働いたことがないというのは色々きつい。
お金も、社会や同級生や親族の目も、頑張ろうという気力も。

だからはじめて正社員として雇用してくれた会社から、自分の名前と、ドメインGoogleやYahooじゃないメールアドレスが記載された名刺を渡された時は、一晩中それを眺めていた。
それほど嬉しかった。

大学中退、職歴は派遣のみ、資格は普通免許のみ、30代前半。

うーん、やはりスペックを羅列してみると、かなりひどい。
客観的にみて、このキャリアはけっこう「詰んでる」。
本当によく雇って頂けたと思う。

提示された給料は月25万+ボーナス(年収モデル350万~400万)。
社保完備、有給あり、退職金はないけどボーナスは安定的にある。
日給月給だった派遣時代は、休めばその分給料も減っていたが、
風邪をひいて休んでも給料が出るなんて、夢のような職場だと思った。
文句のつけようなんてない。
もちろんそれは普通の社会人にとっては当然普通のことなのかもしれない、ただ当時の僕には縁がない世界だった。

”20代で頑張れなかった人はきっと30代でも頑張れない”
周りの人がそう思うのはとても普通で、まともだ。
だけど当事者から言わせてもらえれば別に20代も頑張っていなかったわけじゃない。
一番最初のバスに乗り遅れてしまっただけだ。
一度乗り遅れてしまうと、バスに乗るのが怖くなる。
恥ずかしくて、足がすくむ。動けなくなる。
勇気を振り絞ってなんとか乗り込もうとした事も何度かあったけれど、その度に拒絶され、傷ついた。

ある時、優しい人が「今の仕事を一生懸命頑張りなさい、きっと誰かが見ていてくれるから」とアドバイスをくれた。
だけど、派遣社員の仕事をいくら頑張っても、スーパー派遣リーダーにはなれても、正社員に登用されることはない。
そもそも派遣先には僕の業務進捗度を管理する人はいても、評価する人は同じ場所にいない。
頑張りたくても何を頑張ればいいのかがわからなかった。
この道の先がどこか明るい未来につながってるとはどうしても思えなかった。

それと比べれば、正社員の環境は何を頑張ればいいかについて明確だった。
また、頑張った人がどういう待遇になるかも可視化された世界だった。
そして僕にとって幸運だったと思うのは、入った会社に1000万プレイヤーがいたこと、そして、年功序列の文化がなかったことだ。


だから、夢が見れた。


”あの人”と同じポジションにまで出世できれば1000万くらいもらえるとわかった。
キーエンスじゃなくても、士業の資格を取らなくても、MBAをもっていなくていいんだ。
この会社の中でトップクラスに優秀であることだけを証明して出世すればいい。
これまでと比べれば、ゲームの難易度が急に軟化したように感じた。
そして、いつかの優しい人の言葉をまた思い出した。
「今の仕事を一生懸命頑張りなさい、きっと誰かが見ていてくれるから」

今こそが頑張る時だ、と思った。

そして内なる目標設定をした。
”あの人”のように40才までに1000万プレイヤーになる、と。

約10年遅れでやっと正社員になれたばかりの、Excelもほとんど使えないような人間が、そんな目標を掲げるのはアホすぎるのだが、
お金持ちになれたらいいな、まともな暮らしができるようになったらいいな、というこれまでのようなぼんやりした目標は意味がないと思った。
自分がいつまでにどうなっていたいのか、輪郭線のはっきりした具体的な目標を設定すれば、そのために今何をすればいいか見えてくると考えた。
また、高い目標を掲げれば、仮に達成できなくても、少なくとも今よりは高い位置に届いているかもしれないというな気持ちもあった。

実際、これはその後の自身の様々な行動の意思決定の際にとても役立った。
例えば、誰もやりたがらないような仕事を「誰か担当してくれないか」と社内メールで募集があったとする。
こういう時、内なる声が聞こえるようになる。
「人より10年遅れてるやつが短期間で出世したいなら、こういう誰もやらない仕事やらなきゃいけないんじゃないの?むしろ誰もやりたくないんだから名を上げるチャンスだろ」と。

だから、好んで人よりも多くのタスクを抱えるようになった。。
仕事のクオリティーは急には変わらないから、当然、量=仕事の時間で調整した。
平日は朝晩ずっと働き、終わらなかったら土日で片づけるワークスタイル。
時代が最も推奨していない働き方。
そういう事を続けていくと、当然ブラックの会社じゃなくても、ブラック会社ばりの仕事量になる。
もちろん色々とてもつらかった。けれど、自分で納得感があった。
目標達成のために自分がすべきことをしてるだけだ、と。

なにより、派遣社員の時はどれだけ頑張っても評価されることはない。
派遣先にとっては外注の人間だし、派遣元にとっては優秀な人材より問題を起こさない人を安く使いたい。
彼らにとっては当たり前だ。
僕は、ちゃんと評価される環境で頑張れることだけで十分幸せだった。

 

 

そして、それから。

数年がたち。

 

 

僕は目標を達成した。
税込での給与総額が1,000万を超えたのだ。
自営のビジネスや株、FXを当てたわけではないし、Youtubeなどの副業もしていない。
サラリーマンとしての最も一般的な給与モデル(基本給+ボーナス)で1,000万をもらえるようになった。

1,000万円貰えたから一体なんだというのか?

そう、その金額自体には何の意味もない。
ただ僕にとって、この数年、自身を鼓舞し続けてきた目標数字だ。
そこに到達できたということがシンプルに嬉しかった。

とはいえ、現実的な話、僕は他の1000万プレイヤーと悪い意味でやっぱりだいぶ違った。
まず、住宅ローンに通らない。
派遣社員時代のクレジットカードの履歴が悪すぎるからだ。
不動産の営業マンからは、2年たったら履歴リセットされるのでその時また来てください、と言われた。
また、給与振込に指定している銀行から、突然「プラチナカードを作りませんか?」という招待状が届いた。
こういう機会じゃないと新規にクレジットカードを作ることもないので申し込んでみたが、案の定、こちらも審査落ちだった。
わざわざ招待状が送られてきているにも関わらず審査落ちするという事は僕の金融信用情報は相当悪いのだろうと感じた。
派遣社員当時、大事故をした記憶はないが、滞納の督促はがきはポストからあふれるほどあった。心当たりはとてもある。
そこで、普通のクレジットカードだったら作れるのか試してみようと思い、プロパーの最も低いグレードに申し込んだならば、それは承認が下りた。
しかし、使用限度額がなんと20万だった。学生時代に作ったクレジットカードですら上限50万はあったのに。。

そういうわけで僕が真の意味で1000万プレイヤーになるのはもう数年先になるだろう。
ローンは組めない、クレカはぎりぎり承認では年収がいくら上がっても意味がない。だけど、とりあえず、どん底から数年でここまではこれた。
今はまるで普通の社会人と同じように日々ふるまえている。
望んでこういうキャリアを歩んだわけじゃないけど、あそこまでギリギリの状態にならなかったらここまで頑張れなかった気もする。

 

一応言っておくと、派遣社員誰もが正社員になってお金を稼ぎたいと思ってるわけじゃないことは理解している。
たくさんのライフスタイルがあって、僕の当時の仲間だと、どちらかというとそっちの志向が強い人の方が多いかもしれない。
ただ、もし数年前の僕と似たような境遇で、同じような事を考えている人がいれば、一例として参考になれば嬉しい。

たぶん最も難易度が高いのは、一番最初のステップである”正社員になる”という事だと思う。
僕の場合、どうやったのかについては、また時間ができた時にまとめてみたいと思う。